皆さんこんにちは!ずっちです。
先日、親戚の家に遊びに行った際に、偶然ある本と出会いました。
タイトルがとても気になったので、じっくり読んでみたのですが、育児をする身として、とてもためになる本でした。
それが、こちらの本です。
『母性愛神話の罠』は、恵泉女学園大学の学長であり、発達心理学を専門とする大日向雅美先生が書かれた本で、2000年に原著、2015年に増補版が発行されています。(私は原著の方を読みました。)
『母性愛神話の罠』を読んでまず衝撃を受けたのは、私が日頃からなんとなく感じていた「育児のやりにくさ」を的確にとらえていて、なおかつその元凶として「母性愛神話」を徹底的に追及していることでした。
【ずっちが感じていた育児のやりにくさ】
- 保育園に預けることを年上の人から「かわいそう」と言われる。
- 家庭での教育が、子どもの将来を大きく左右するとされている。(「子どもをT大学に入れる方法」「子どもを伸ばす親の言葉」などの本が無数にある。)
- 男性で育休を取得している人が少なく、会社でもなんとなく取得しづらい雰囲気がある。
- 子育て支援センターに行っても、ママさんばかりで、他のパパさんに会えない。
など
ジェネレーションギャップ、教育、働き方、ジェンダーなど様々な観点からこれらの問題は考えることができますが、どれも母性愛神話から始まっていることにこの本を読んで気づかされました。
そして何よりも驚いたのが、20年以上前に母性愛神話の問題性を指摘している研究者がいたということと、それにも関わらず、現在も問題の形はほとんど変わっていないということです。
先ほど紹介した通り、原著は2000年発行ということで、取り扱っているデータやエピソードは確かに古くなってきています。
しかし、読んだ印象としては「いまもあまり20年前と変わらない」というのが率直な感想です。
もちろん少しずつ問題を乗り越えようとする動きはあるものの、まだまだ母性愛神話は私たちの生活に力強く根を張っているとすら感じました。
たくさんの学びと気づきを与えてくれた『母性愛神話の罠』を、是非たくさんの人にを読んでいただきたいと思い、紹介記事を書くことにしました。
この記事では、『母性愛神話の罠』の第5章、第6章に書かれている、複数の顔を持つ母性愛神話の中でも、特に就労と育児の両立を阻む「三歳児神話」について紹介し、この本が発行されてから20年以上経った現在において、「三歳児神話」がどのように我々の身近に存在するのかを考えていきたいと思います。
この記事では、本『母性愛神話の罠』をもとに、次のような疑問について考えていきます。
- 「三歳児神話」ってなに?
- 「三歳児神話」は私たちの生活にどのような影響を与えているの?
- 「三歳児神話」はどのようにして生まれたの?
- 「三歳児神話」を崩す上でのパパの役割は?
それでは、男性が主体的に関わる妊娠・出産・育児を一緒に目指していきましょう!
三歳児神話はいったい何なのか
『母性愛神話の罠』では、三歳児神話は次のように紹介されています。
三歳児神話とは、「子どもが小さいうちは、とくに三歳までは母親が子どものそばにいて、育児に専念すべきだ」という考え方である。
引用:母性愛神話の罠 大日向雅美
「三歳児神話」という言葉を聞くと、どうしても「三歳までは」という言葉に目が行きがちですが、実際に重要なのは「母親が」という点です。
「(父親ではなく、祖父母でもなく、保育施設でもなく、)母親が」という意味が含まれているからです。
この三歳児神話の考え方は、後ほど詳しく紹介しますが、性別役割分業体制を下支えしています。
この考え方は「神話」と言われているように、明確な根拠がないにも関わらず、長い間多くの人によって絶対的なものとして信じられてきました。
誰も疑わなかった三歳児神話に、激震が走ったのは1998年。
当時の厚生省が発行する『厚生白書』に次のような言葉が掲載され、話題を呼んだらしいのです。
「三歳児神話には、少なくとも合理的な根拠は認められない。」
当時、私は7歳。
まさに専業主婦の母によって育てられていました。
行政から発表されたこの言葉を聞いて、私の母はいったいどんなことを思ったのか、大変気になるところです。
私たちの生活に染みついた三歳児神話
三歳児神話って初めて聞きましたが、どうやら過去の考え方みたいですね。
現代にはあんまり関係ないんじゃないんですか?
確かに、厚生省は1998年に「三歳児神話には合理的な根拠がない」と発表していますが、それが我々市民に定着したかというと、話は別です。
よく見てみると、2020年代の今も、三歳児神話は私たちの生活に染みついています。
いくつか例を紹介したいと思います。
現代の三歳児神話① 育休パパ、子育て支援センターにて
まずはじめに、私が息子を連れて平日に、子育て支援センターをひとりで利用した際のエピソードを紹介します。
【子育て支援センターで出会ったママさんとの会話】
お父さんが赤ちゃんの面倒をみるなんてすごいですね。
本日は、お仕事お休みなんですか?
いいえ、現在育休中なんです。
へえー。そうなんですね!
いつまでですか??
この子を保育園に入れる来年の4月までは育休の予定です。
それは奥様も助かりますね!
本日は、奥様はお出かけですか?
今日、妻は仕事なんです。
え、じゃあご主人がメインで赤ちゃんの面倒見ているんですか??
まあ、そういうことになりますね。
終始驚いていた同世代ママさんが、子育て支援センターにいる私を見て最初に思ったのは、たぶんこうです。
パパさんが0歳の赤ちゃんと支援センターに来るなんて、珍しい。
今日はお休みで、奥さんの代わりに赤ちゃんの面倒をみていてるのかな?
ひとりってことは、奥さんはおでかけでもしてるのかしら。
けっして、このママさんが特殊なのではなく、多くの方が同じように思うのではないでしょうか?
この同世代のママさんが、育児をするパパ(私)を見て、このように話しかけたのは紛れもなく、
「生まれたばかりの赤ちゃん(三歳児以下)の面倒をみているのは、母親のはずだ」
という思い込みからだと思います。
そうでなければ、「お父さんが赤ちゃんの面倒をみていてすごい」とか「奥様助かりますね」とかいう言葉はでてこないはずです。
もちろん、「お父さんよりも、お母さんが子供の面倒を見たほうがいい」とか、「仕事をしてるなんて、お母さん失格」とか、過激なことを言われたわけではないので、三歳児神話を心底から信じているわけではないとは思います。
しかし、「小さい赤ちゃんの面倒をみるのは、普通は母親」ということに疑問を感じないぐらいには、2020年代に子育てする私たち世代に、三歳児神話はしっかりと浸透しているのです。
現代の三歳児神話② 第一子出生と妻の就業変化の関係から
次に、今年2021年に発行された最新の厚生労働白書のデータを見てみたいと思います。
引用:令和三年版 厚生労働白書
特筆すべきことでもありませんが、男女平等参画社会が当たり前となった現在、女性が大学に行ったり、キャリアパーソンとしてバリバリ働くことは珍しくありません。
また「結婚したら、仕事をやめて家庭に入る」という女性の数も減ってきていることがグラフから推測できます。(オレンジの帯:妊娠前から無職)
しかし、出産後もキャリアを続けられるかは、話が別なようです。
まず、出産前に仕事している人のうち、約50%の女性が第一子の出産を機に退職しているという実態があります。(みどりの帯:出産退職)
また、出産後、育休を取得せずに就業を続ける女性(産休明けから働く女性)は、出産前に仕事をしている人のうちのわずか15%程度であることも気になるところです。(みずいろの帯:就業継続〈育休なし〉)
『母性愛神話の罠』の中で、大日向先生は次のように書いています。
女性の就業継続の前に立ちはだかるのがこの三歳児神話であり、乳幼児期は母親は仕事も何も捨てて育児に尽くすのが望ましいという考え方の基になっている。
現代の女性のライフスタイルは多様化しているといわれながら、実態はこの三歳児神話の影響によって、子どもを持った女性が育児に専念する傾向は変わっていない。
引用:『母性愛神話の罠』 大日向雅美
我々男性はどうでしょうか?
女性の就業継続の前に立ちはだかるのが三歳児神話なのであれば、男性の乳幼児の育児参加の前に立ちはだかるのも三歳児神話なのかもしれません。
先ほどの文章を男性版に勝手にアレンジしてみたら、次のようになりました。
男性の乳幼児の育児参加の前に立ちはだかるのがこの三歳児神話であり、乳幼児期は父親は育児を妻に任せて、仕事に専念するのが望ましいという考え方の基になっている。
現代の男性のライフスタイルは多様化しているといわれながら、実態はこの三歳児神話の影響によって、子どもを持った男性が仕事に専念する傾向は変わっていない。
子育てブロガー ずっち
男性の育児休業取得率がなかなか上がらないこと、子育て支援センターでパパをほとんど見かけないことを考えると、あながち間違っていないような気がするのは私だけでしょうか??
三歳児神話って言葉は知りませんでしたが、たしかに女性が小さい赤ちゃんの育児して、男性は働くことに何の違和感も持っていませんでした。
わたしも三歳児神話を知らないうちに信じていたんですね。
そうなんです!
三歳児神話は決して昔の話ではなく、今も私たちの身近にあることをご理解いただけたのではないでしょうか?
三歳児神話の歴史はたったの100年??
しかし、昔から信じられていた三歳児神話を、いまさら人々が信じなくなるのって、かなり難しい気もします。
「昔から信じられていた」っておっしゃいましたけど、実際三歳児神話がいつから信じられてきたと思いますか??
え。。。 それは人が人である時からずっとじゃないんですか?
例えば、弥生時代とか縄文時代とか。いや、もっと前かも。
実は三歳児神話の歴史って、そんなに長くないんです。
日本では、大正時代半ばと言われていて、その歴史はたった100年ぐらいしかありません。
えええええ!!そんなに最近なんですか??
母が育児することは、いつの時代も当たり前ではなかった!
『母性愛神話の罠』の中で大日向先生ははっきりと、三歳児神話は古来からの当たり前の考え方ではなかったと書いています。
子どもが生まれたら仕事を辞めて母親が育てるべきだという人々に、その理由を尋ねてみると、判を押したように「古来から女性が子を産み、父を与えて育ててきた。それが自然だから」という答えが返ってくる。 (中略) しかし、歴史をたどってみると母親が幼少期の子供の世話に専念する習慣は、決していつの世にも通じる普遍的な現象ではない。
引用:『母性愛神話の罠』 大日向雅美
では三歳児神話はどのようにして生まれ、私たちの生活に入り込んできたのでしょうか?
三歳児神話の始まりは資本主義の始まり
三歳児神話は、資本主義社会の訪れと同時に生まれたと大日向先生は書いています。
その幼少期の子育てを人智のコントロール下に置き、しかもその責任の大半を母親に託すという考え方が登場したのは、大正半ばである。折しもこの時が日本に資本主義が導入され、都市に勤労者世帯が登場した時である。職住分離の形態で男性は仕事に出向き、女性が家を守り、育児に専念するという家族形態が、資本主義体制の維持に不可欠のものとされた時代が到来した。
引用:『母性愛神話の罠』 大日向雅美
当時の資本主義社会は、「男は仕事、女は家」の性別役割分業のもと成り立っていました。
その社会背景から、1920年に創刊された当時の育児書『日本児童協会時報』には、お医者さんや学者さんが、「母親が一人で子育てに専念することが本来の育児であり、幼少期の母親の育て方でその子どもの善し悪しが決まる」という論説が展開されるようになったそうです。(『母性愛神話の罠』より)
ちなみに資本主義社会の前はどうだったかというと、労働人口のほとんどが農業に従事していた社会でした。
その社会では、農家の嫁は母親である以上に労働力として期待されていたため、子育ては村ぐるみ、家族ぐるみの営みで、主に農作業を退いた祖父母らに託されていました。
『母性愛神話の罠』より
政治によって三歳児神話が強化された時代
そして、三歳児神話の考え方を政治が強化する時代が訪れます。
戦後の高度成長期と石油ショック以降の低成長期です。
まず、一九五〇年代半ばから一九六〇年代にかけての高度成長期は、(中略)企業戦争を生き抜くための滅私奉公型労働力が必要とされた時代であった。家庭は企業戦士の男性にとってエネルギーの充電場とされ、夫の健康管理が妻の最大の役目とされた。同時に未来の優良な労働力の育成も妻に託された重大な役割であった。
大正時代に資本主義体制と近代家族の維持に必要とされて登場した性別役割分業の理念は、高度成長期に名実ともに専業主婦という形で定着した。特に母親の子育てに大きな期待がかけられた。
引用:『母性愛神話の罠』 大日向雅美
戦後の経済成長が性別役割分業の家庭構造によって支えられていたことは、なんとなく直感的にわかりますね。
でも、低成長期にも、性別役割分業が必要とされたのはなぜなのでしょうか?
一方、高度成長期が終わり、低成長期に入った一九七〇年代になると、専業主婦の存在意義は別の観点からさらに必要とされた。政府が福祉予算削減策を打ち出したのであるが、それは具体的には高齢者福祉予算と乳幼児保育予算の削減を目的としたものであった。(中略)
しかし表向きは福祉予算の削減を率直に表明することなどは無論行われず、「女性特有の母性愛」の賛美がうたわれたのである。北欧諸国の施設型福祉ではなく、日本古来の伝統にのっとった家族愛、なかでも母性愛をもって高齢者と乳幼児の世話を行うのが日本型福祉とされ、家庭基盤充実構想が打ち出されたのである。
引用:『母性愛神話の罠』 大日向雅美
なるほど。。。
高齢者福祉と乳幼児福祉予算削減のために、女性に無償で高齢者と乳幼児のケアを担ってもらおうとしたわけですね。。。
いかにも政治がやりそうなことで、なんだか、妙に納得してしまいました。
三歳児神話は意図的に作られた
三歳児神話がまさかその時代の働き方、景気、政策などによって作られてきたものだったなんて驚きです。
そうなんです!!
1998年に厚生省が「三歳児神話には合理的根拠がない」と発表したのも、実は日本の少子化が深刻な問題になったからと言えます。
自分で作り上げた物語が不都合になったから、なかったことにしようとしたってことですね。
皮肉なことに行政が三歳児神話をなかったことにしようとしても、人々の生活や考え方にしっかりと染みついてしまっているんですけどね。
2020年代の子育てパパは、三歳児神話を崩せるか
それでは、これまでのことを一度まとめたいと思います。
三歳児神話は、
- 「子どもが小さいうちは、母親が面倒をみるべき」という考え方。
- 2020年代も、人々が無意識のうちに信じている部分があり、女性の就業継続、男性の乳幼児の育児参加の壁となっている。
- 普遍的な考え方ではなく、資本主義社会以降にその時代の働き方や景気、政策などの社会的要請に基づいて作り上げられたもの。
ここまでは、2020年代に入っても、残念ながら我々は三歳児神話から完全には抜け出せていないということを中心に書いてきました。
しかし、課題はありながらも、少しずつではありますが変化は起きています。
- 2020年、共働き世帯(1240)は、専業主婦世帯(571)の2倍以上に。
- 男性の育児休業取得率は2019年までは1%程度の増加にとどまっていたのが、2020年は前年の7.5%から12.7%に5%以上も上昇。
- 育児休業が取得しやすくなるように、2021年に育児・介護休業法が改定され、2022年より随時施行される予定。
- 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、企業のリモートワークなどの働き方改革が加速。
三歳児神話が誕生してから、約100年。
私たちを取り巻く、家庭状況、人々の考え方、政策、働き方などが変わってきています。
『母性愛神話の罠』で、大日向先生は次のように書いています。
三歳児神話を作るのも崩すのも時代の要請である。男女共同参画社会の実現をどこまで本気で求めるかによって、三歳児神話を崩せるか否かも変わってくることであろう。
引用:『母性愛神話の罠』 大日向雅美
私は、今がまさに三歳児神話を崩す時チャンスだと思います。
そして、三歳児神話を崩すのに大きな役割を担うのは、2020年代のパパでないかと思うのです。
乳幼児の育児に関心を持ち、育休などを使って育児に参加するパパさんが増えることで、徐々に三歳児神話の壁は崩れていくのではないでしょうか。
もちろん、育児を積極的に行うためには、会社をはじめとする周りの理解も進む必要もあります。
しかし、それはニワトリとタマゴ。
子育てに主体的に関わるパパさんが増えれば、自然と周りの理解者も増えるはずです。
私自身、あの日子育て支援センターで出会った同世代ママさんに
「パパも育児してもいいんだ。それが当たり前だったんだ。」
と気づいてもらえたら、少しは生活にしみ込んだ三歳児神話のしみ抜きのお手伝いができたのかなと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
三歳児神話について、名前を知っていた人も、全く知らなかった人も、少しは身近に感じていただけたのではないでしょうか。
もっと詳しく、三歳児神話について知りたいという方は是非『母性愛神話の罠』読んでみてください。
三歳児神話の他にもたくさんのことが学べる超おすすめの本です。
特に育児支援などの活動をしている方には絶対読んでいただきたい本となっています。
『母性愛神話の罠』で取り扱っている他の話題についても随時ブログで紹介していく予定ですので、次の記事を楽しみにしていただければ嬉しいです。
ずっち